1) 何故、違法ドラッグや麻薬、お酒を飲んだらいけないの?
山口 喜規
 今の日本において麻薬や覚せい剤等による事件、事故、それらに関するニュースが、最近後を絶たないように続いています。誰しも麻薬や覚せい剤等の使用はいけないもの怖いものという認識を持っているにも係わらず事件・事故がなくならないようです。これらの要因として多くのものが有りますが、そのひとつとして麻薬・覚せい剤等への知識不足が挙げられると思います。
そこで、今回は、麻薬や覚せい剤・シンナー・違法ドラッグ等の人体への影響とその使用がなぜいけないのか?についてお話します。
まず、麻薬や覚せい剤・シンナー・違法ドラッグ等の使用は薬物乱用と言います。
薬物乱用とは、医薬品を本来の目的とは違う用法や用量あるいは目的に使用すること医療目的にない薬品を不正に使用することをいいます。もともと医療目的の薬物は、治療や検査のために使われるもので、それを遊びや快感を求めるために使用した場合は、たとえ1回使用しただけでも乱用にあたります。
今日、薬物乱用問題は日本だけにとどまらず、全世界的な拡がりを見せ、人間の生命はもとより、社会や国の安全を脅かすなど、人類が抱える最も深刻な社会問題の一つとなっています。
次に乱用されている薬物の種類と特徴をまとめたものが表1になります。

表1. 薬物の種類と特徴

中枢
作用
薬物の
タイプ
精神
依存
身体
依存
耐性 乱用時の主な症状 離脱時の
主な症状
精神
毒性


※1
催幻覚 その他
抑制 あへん類
(ヘロイン、モルヒネ等)
+++ +++ +++ 鎮痛、縮瞳、便秘、呼吸抑制、血圧低下、傾眠 あくび、瞳孔散大、流涙、鼻汁、嘔吐、腹痛、下痢、焦燥、苦悶
バルビツール類 ++ ++ ++ 鎮静、催眠、麻酔、運動失調 不眠、振戦、痙攣、せん妄


アルコール ++ ++ ++ 酩酊、脱抑制、運動失調 不眠、抑うつ、振戦、痙攣、せん妄

ベンゾジアゼピン類
(トリアゾラム等)
鎮静、催眠、運動失調 不安、不眠、振戦、痙攣、せん妄


有機溶剤
(トルエン、シンナー、接着剤等)
± 酩酊、脱抑制、運動失調 不眠、振戦、焦燥 ++

大麻
(マリファナ、ハシシ等)
± ++ 眼球充血、感覚変容、情動の変化 不眠、振戦、焦燥
興奮 コカイン +++ 瞳孔散大、血圧上昇、興奮、痙攣、不眠、食欲低下 ※2
脱力、抑うつ、焦燥、食欲亢進
++
アンフェタミン類
(メタンフェタミン、MDMA等)
+++
※3
瞳孔散大、血圧上昇、興奮、不眠、食欲低下 ※2
脱力、抑うつ、焦燥、食欲亢進
+++



※4
LSD +++ 瞳孔散大、感覚変容 不詳 ±
ニコチン
(たばこ)
± ++※5 鎮静、発揚、食欲低下 焦燥、食欲亢進


[注] 精神毒性:精神病惹起作用
  ※1: 法律上の分類
  ※2: 離脱症状とは言わず、反跳現象という。
  ※3: MDMAでは催幻覚+。
  ※4: MDMAは法律上は麻薬。
  ※5: 主として急性耐性。
  +−: 有無および相対的な強さを表す。ただし、各薬物の有毒性は、上記の+−のみで評価されるわけではなく、結果として個人の社会生活および社会全体に及ぼす影響の大きさも含めて、総合的に評価される。


表中のなかでのMDMAや表には載っていないのですがマジックマッシュルーム、2C−Bなど近年話題になっている薬物がありますが、これらは以前に「合法ドラッグ」「脱法ドラッグ」などと呼ばれていましたが、今では法が整備され、規制の対象になっており「違法ドラッグ」や「幻覚剤」などと言われています。
特に、ここ数年で乱用が急増しているものにMDMA(メチレンジオキシメタンフェタミン)があります。この薬物は錠剤やカプセルで内服にて使用されるのですが、見た目にはラムネ菓子の様な錠剤で外観や使用法から“あやしさ”や“おそろしさ”を感じさせないようになっており、若年者での乱用が増えています。この他にも点眼して使用したり、アロマオイルの類と称して鼻から吸引して使用したりなど、「違法ドラッグ」には数多くのものが存在します。これらの薬物は密造所で製造されており、合法な物質や非合法な物質の分子構造の一部に手を加え新たな物質を作りあげているのです。そこに潜んでいる危険性は、このほんの僅かな構造上の変更により、本来は「ハイ」な気分にさせる物を、たちどころに悲劇的な死をもたらす物へと変えてしまうという点にあります。ある種の薬物の場合、実にヘロインの50〜3,000倍も強力なものもあります。
それでは、薬物乱用がなぜいけないのか。乱用される危険性のある薬物は"こころ"すなわち精神に影響を与える作用をもっています。これは、中枢神経系(脳)を興奮させたり抑制したりして、多幸感、壮快感、酩酊、不安の除去、知覚の変容、幻覚などをもたらす働きです。使用量によっては、急性中毒症状のために直接死につながる危険性もあります。この働きは脳に対して深刻な障害(ダメージ)を与えます。この影響により、意欲や知能の低下・精神病・被害妄想や幻覚による異常な言動等が現れることがまず第1の問題になります。そして、この脳へのダメージはもとには戻らないのです。それと、もちろん、脳以外の肝臓や心臓など他の臓器への悪影響もあり、そこから多くの病気につながります。
次に第2の問題として、薬物乱用のもっとも恐ろしい特徴として、何度もくりかえして使いたくなる「依存性」という性質をもっていることです。乱用をくりかえす人は、「快感を得るため」ではなく、いつまでもなおらない疲労感やイライラ、不安からのがれるため、つまり「不安感をなくすため」に薬物に頼らざるを得なくなります。そうして、薬物なしではいられなくなるのです。しかも覚せい剤などいくつかの乱用薬物には、使用をくりかえしているうち、それまでと同じ量では効かなくなる「耐性」という性質があります。1回だけと思って始めた人も、薬物の「依存性」と「耐性」によって使用する量や回数がどんどん増えていき、自分の意志ではやめることができなくなり、どうしようもない悪循環となるのです。そして、これらの症状がでると、どんな犠牲を払っても薬物を手に入れようとする薬物中心の生活になります。その結果、仕事や勉強が手につかなくなったり、薬物を手に入れるために借金を重ねたり、最後には強盗や窃盗などの犯罪に走ることになります。
さらに、第3の問題として薬物乱用による精神病・被害妄想や幻覚によって、自らの体を傷つけたり、自殺、通り魔的な殺傷事件を起こしたりもします。
この他にも薬物の売買による莫大な利益が暴力団などの犯罪組織に流れ、社会の安全に脅威を及ぼすなど多くの問題があります。
そして、薬物乱用が大人と比べ子ども達に対して非常によくない点として、臓器を含めた体が未熟な為、薬物によってうける影響(依存性も含めて)が非常に大きいのはもちろんのことなのですが、特に10代は、心身の成熟とともに人格の形成に大切な時期です。自分の周囲に向けられていた視線が自己の内面に向けられ、自我の発見につながる時期であり、社会の一員としての行動様式や社会規範を習得し、自分らしさを発揮していく時期なのです。この大切な時期に薬物乱用の悪循環に取り込まれると、社会への適応能力が鍛えられず、人間としての豊かさや、価値判断、人を思いやる心、うそをつかない、信頼感など大切な心が形成されなくなります。その結果、自己中心的で自分の責任は負わないが、他者に対する責任追及は厳しく、性急に自分の欲求を出し、思い通りにならないとすぐにカッとなり、無気力でだらしなく、目標意識が希薄であり、意志の発動が少なく非社交的な大人になってしまう。また、自殺念慮も現れる。このような点から子ども達の薬物乱用は非常に問題なのです。
最後に、薬物乱用の人体への影響ついて今までお話してきましたが、法律でも禁止されている通りに、「薬物乱用はダメ。ゼッタイ。」なのです。