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 育児について
庄司 義興
  「トラとライオンのどちらが子育てがうまいか」皆さんご存知でしょうか?正解はトラです。ライオンは集団で子育てをして子どもの時から子育てを見様見真似で覚えていきます。ところがトラは単独行動なので、子育ても素人です。なかなかトラの赤ちゃんは育たないので、大切なものを虎の子なんて表現します。最近は人間の子育て環境もトラの子育てに似てきました。核家族化が進み、みんなで助け合う人間関係が基盤にある地域カがなくなり、孤立して子育てしているお母さんも多くいると思います。楽しいはずの育児が、最近はつらくて大変なものになっています。かなり以前から育児、子育てがつらいと訴える母親が増加しているといわれています。
 こどもの世話にふりまわされて、自分の時間がとれない。こどもに泣かれた時、どうしたらよいかわからない。どんな事をしても泣き止まない。自我の芽生え始めた子どもが、かわいくない。素敵と思って結婚した夫が当て外れでこんなに非協力的だとは。いつの時代にもある義父母との葛藤がつらい。今までキャリアできちんと評価されていた母親にとっては、育児は評価されていないと感じる。などが理由としてあげられています。育児にストレスを感じている母親も多く、時には虐待まがいの行動も問題となります。

 しかし育児ストレスは永遠につづくものではありません。恵泉女学園大学教授の大日向雅美先生は、「育児ストレスの対応」として、ストレスを感じたら、一生懸命やっている証拠と自分を褒めてあげる。ストレス源から逃げない。自分を客観視する(今、5年前、5年後)5年後はどうなっているのか想像してみよう。けっして出口のないトンネルではない。また楽しい時間、苦しい時間を1日の中でみつけて、対応しましょう。大切なことは、一人で抱え込まない。自分をだめだと考えない。と、お話しています。

 今現在の子どもたちの多くは、昔の子どもたちと比べて、わがままに育てられ、自分本位。他人に対する思いやりがなく、いつも不平をいっては我慢することを知りません。また自然がなく、時間が無く、仲間との集団遊びがない。幼児期からテレビゲームに熱中し、頭はメディア中毒。昔は色々な遊びの中で、ガキ大将に統率され、ルールを決めて、遊びの工夫をし、時には、危険な遊びもしたけど、親もこどもの遊び仲間集団を信頼して、干渉しない。干渉するほど時間がなく暇がなく毎日を必死に生きていた。またこどもたちは集団の中で、自分のたりない部分に気づき、相手を思いやる心、いたわる心、我慢する心が知らず知らずのうちに身についていきました。でも昔はという事がいえないほど、社会環境の変化が甚大です。昔を回顧しても始まりません。昔を忘れて今現在の問題を考えていかなければいけません。

 小児科の外来をやっていると、びっくりするような大声で泣き叫ぶ1〜2才の赤ちゃんに出くわします。特別な障害のある子どもは別としても、正常に発育している子ども達の中に、とにかく、気が狂ったように泣く。他人の言う事を全く受け付けない。泣き叫ぶことで、この場を逃れ、問題を処理しようとする子どもです。お母さんに抱かれていても異常に泣き叫ぶ。少し大きな子だと自分の思い通りにいかないと、お母さんに暴力を加える子もいます。この様な子どもたちは、物質的に必要以上に好きなものを与えられている場合が多く、すべてが自分の思い通りになると思っている子ども、我慢する心がまだない子どもです。大人がこどもに繰り返し言葉と態度でだめなものはだめと教えなくてはいけません。これは大変な作業です。
 今の子ども達は、びっくりするほどひ弱で、打たれ弱く我慢ができない子ども達が多いと感じています。一度も怒られたことのない子ども達もいます。それは、子ども達に問題があるのではなく、現在の子育てが、生まれてすぐから我慢や忍耐が育つ状況、環境の中で育てられてはいないのではないでしょうか。

 ニュー・マザリングシステム研究会、田中喜美子著の「母子密着と育児障害」の中で「抱っこ育児」について言及しています。泣けば抱っこ、こどもの安心が大切、赤ちゃんの自然の欲求を満たしてあげるように。母乳育児では泣けば母乳をすぐに与えなさい。というのが抱っこ育児です。そのようなことを続けていくと赤ちゃんは泣けば、母は自分の言いなりになると子どもながらにわかってしまう。抱き癖がつくと、「駄々っ子」になるだけでなく自立心も育たない。食べるという行為においても現代のちゃんは空腹を感じていない、一生懸命食べない、だから「ながら食い」でだらだらと食事をする。夜ぐっすり寝ない、寝るという人間の生理的本能的なことに対しても、母が寝かしつけるのが大変となる。以上が抱っこ育児の問題であると述べています。彼女は、しつけの要(かなめ)として、生きる力のある子を育てるために3歳までに5つのけじめをと提唱しています。
  
食事は規則的に、食事の間はきちんとすわっている
  
歩けるところは歩く。やたら抱っこをしない
  
夜は大体決まった時間に一人で就眠。
  
テレビは決まったものしか見ない。1日に1時間
  
いつも相手をしてもらわなくても、ある程度まで機嫌よく一人遊びができる。

 今、子どもたちに必要なことは、けじめのある愛情ある躾だと思います。けっして物質的なものが豊富であっても思いやりのある優しい素敵な大人にはなりません。個々に色々なケースがあり、どれが育児の正解かわからないこともあります。でも子どもに愛情をもって育てるという気持ちがあれば、それでよいのではないでしょうか。勿論暴力は問題外ですが。育児に正解はありません。毎日が試行錯誤の中で、でもつらい時はこどもの笑顔で救われます。愛情をもってこどもの成長を見守る事、いけないことはいけないと根気よく教えていく事、こどもと一緒に親も成長していくことだと思います。人の気持ちのわかる人間味ゆたかな人に育つよう小児科医も少し手助けしますので、なんでもかかりつけの小児科医に相談して下さい。