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 母乳とむし歯
川崎 琢也
  1)母乳とむし歯
 最近卒乳という言葉が使われ、1歳を過ぎても母乳を飲んでいる子供たちが増えてきており、気をつけないとむし歯になりやすいと言われています。
 本来、母乳は、栄養学的、免疫学的にも優れており、経済的にも利点があり、特に精神的影響については、ポリグラフを使った研究でも遊び飲みをしながら眠ることが子どもの精神的安定に効果があることが分かっています。母乳を与えることは最も強い親子の結びつきであり、母乳栄養をすすめていく上でも、母乳の正しい与え方をご理解いただきたいと思います。

2)母乳の飲み方とむし歯の問題
 乳幼児は母乳を飲むとき、舌を上顎に押し付けてしごいて飲むので、上の前歯には母乳が付着してむし歯になりやすく、下の前歯では、母乳が唾液によって洗い流されるので、むし歯になりにくいと言えます。また日中にくらべ夜間は唾液が減少するので、夜間の授乳のほうがむし歯への影響は大きいのです。

3)授乳とむし歯の原因
 歯が生えると同時にむし歯の原因菌であるミュータンス連鎖球菌が常在菌として歯の表面で成育し始めます。歯をきれいにしておかないと歯の表層のエナメル質表面に食物残直などがたまり、そこに母乳が溜まるとミュータンス連鎖球菌は乳糖を解糖し増殖します。そのときに酸を産生してエナメル質表面に脱灰が生じます。哺乳後、歯をきれいにすると、唾液中のカルシウムが脱灰部分に沈着しもとに戻ります。これが再石灰化です。このように歯をきれいにすると母乳を与えても、日夜エナメル質表面では脱灰と再石灰化が交互に起こって歯は健康を保てます。ところが哺乳後、歯をきれいにしないで堆積物がたまった状態にしておくと脱灰は再石灰化を上回り、むし歯となります。ですから、母乳そのものはむし歯の原因とはいえませんが「お口のケア」が悪いとむし歯になるのです。

4)対策
 食物残渣が歯の表面に付着しないよう「お口のケア」が大切です。歯が生えたら、母乳を与えた後に指に巻いたガーゼや綿棒で、口腔内とくに上の前歯を清拭します。歯磨きをさせてくれる1歳過ぎの年齢では、母乳を与える前に歯を磨き、与えた後でガーゼや綿棒で清拭します。口腔内の細菌の関係でむし歯になりやすい乳幼児もいます。この診断は小児歯科専門医でないとできないので、1歳以降に母乳を与えている場合は、一度小児歯科を受診し相談するとよいでしょう。