クラミジア感染症は女性がかかる性感染症としては最も多く、またその数は年々増加しています。厚生労働省の調査によると、1998年から3年間でクラミジア感染症の患者数が2.7倍に増え、男性では15万人、女性では85万人が感染していると報告されています。初期症状としては帯下の増加等ですが自覚症状に乏しいため、進行し卵管炎や骨盤腹膜炎となり、不妊症や子宮外妊娠の原因となることがあります。妊娠している場合、流産や早産の原因となることがあり、また分娩時に児に感染して結膜炎などを引き起こします。
はじめに当院でのクラミジア感染症の現状を報告します。
平成16年7月28日より平成18年7月27日までの1年間に当院を受診した妊婦538名、及び同期間に当院を受診した症状のある女性103名を対象とし、クラミジア抗原検査を行ないました。
1.妊婦
妊婦538名中19名がクラミジア陽性でした(陽性率:3.5%)。
年代別に比較すると、10代では7名中1名陽性(14.2%)、20代では300名中14名陽性(4.6%)、30代では224名中4名陽性(1.7%)、40代では7名中陽性は認めませんでした。
2.有症状患者
妊婦以外の有症状で検査を施行した女性103名中19名が陽性でした(陽性率:18.4%)。
年代別に比較すると、10代では14名中7名陽性(50.0%)、20代では66名中11名陽性(16.6%)、30代では20名中1名陽性(5.0%)、40代以上では3名中陽性は認めませんでした。
主な症状としては、不正性器出血、帯下異常、外陰部掻痒感、下腹部痛でした。
クラミジア感染症は,クラミジア(Chlamydia trachomatis)によって起こされる性感染症であり、現在世界的にみて最も多い性感染症です。わが国においても例外ではなく、クラミジア感染症は、1992年以降淋菌感染症に代わって最も多い性感染症となりました。しかし、その初期においては淋菌感染症と比較して著明な自覚症状があるわけではないために潜在化し、感染は拡大し蔓延傾向にあります。このような無症候性感染(不顕性感染)がクラミジア感染の特徴であり、検査を行わなければ診断を見逃すことになります。
世代別では特に16〜25歳までの若年女性に圧倒的に多く認められるとされており、若年者はセックスパートナーが多く、防御意識に乏しいことが原因と考えられています。性感染症のリスクの高くない一般妊婦においてもクラミジア陽性率は3〜5%と報告されており、すでに一般女性に入り込んだ性感染症とされていいます。当院においても、若年者層がより高い陽性率になっており、妊婦での陽性率も3.5%でした。
潜伏期間は、1〜3週間とされていますが、70%以上が無症状であり、感染を自覚することのほうが少ないようです。しかしクラミジアによる子宮頸管炎から感染が子宮内を上行し、卵管に拡大すると、卵管炎により卵管狭窄・卵管閉塞に至り、子宮外妊娠の原因になることもあります。さらに、卵管閉鎖により卵管性不妊に至ることもあります。卵管炎からさらには腹腔内感染にいたると骨盤腹膜炎となります。さらに腹腔内感染が上腹部に及ぶと肝臓と他の臓器の炎症性癒着をきたし、激しい上腹部痛をきたす肝周囲炎(Fitz-Hugh-Curtis症候群)となることもあります。これまでの研究によると性器クラミジア感染症になった女性のうち40%程度の人は骨盤内に感染が進み、そのうちの15〜20%程度は下腹部の慢性痛が発生し、20%程度の人は不妊症になり、5〜10%程度の人は子宮外妊娠を起こすとされています。
妊娠中にクラミジア頸管炎があると、隣接する子宮内の卵膜への感染(絨毛羊膜炎)を続発することがあります。絨毛羊膜炎が起こると、卵膜組織より子宮収縮物質であるプロスタグランジンが産生されるために子宮収縮が起こり、同時に卵膜の感染部位は脆弱化するため前期破水を起こし、流産あるいは早産につながることがあります。
また、子宮頸管にクラミジアを感染している妊婦から出生した新生児は、分娩時にクラミジアに曝露されます。その結果、産道感染が起こり、児は結膜炎や肺炎を出生後に引き起こすことがあります。
そのため、妊娠初期にクラミジア検査を施行し治療することは、流産、早産を防止するとともに、新生児感染を防ぐ意味においても有用です。
クラミジア感染症における感染経路で最も多いのは、通常の性行為を通じて性器の粘膜に感染するケースです。パートナーが1人だからといって安心はできませんし、性行為を行なった人は誰でも感染している可能性があります。オーラルセックスなどによっても感染することも少なくありません。しかし、コンドームなどの使用による性器粘膜の接触を伴わない行為や、お風呂場や空気感染などでの間接的な感染はほとんどありません。
クラミジア感染症の治療で重要なことは、セックスパートナーの理解と協力です。本人だけが完治しても再発を繰り返す可能性が強いので、パートナーも一緒に検査を受けて同時に治療を行なう必要があります。パートナーが複数いるような場合は再感染が起こりやすいので、数ヶ月に一度は検査を受けた方が良いでしょう。
クラミジア感染症のことを良く知って、適切な対応をしましょう
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