15)予防接種の目的

学生の抗体検査

 最近、医療や教育・保育関係の学生が小児科医院を受診することがあります。入学や実習の前に、麻疹などの感染症の抗体検査をするよう学校から指示されてくるのです。患者や子どもに接する専門職ですから、感染しないように、そして、患者や子ども達に感染させないようにという配慮です。患者や子ども達がいる場所で、少なくとも自分が感染源にならないよう、予防接種歴や抗体を確認することはとても重要です。

集団内での感染症流行の例

 集団の中で感染症が流行することはよく経験されますが、その中で印象的な出来事があります。2002年、ある保育園でB型肝炎の集団感染が発生しました。感染は園内の園児19名、職員6名の計25名に拡がりました。B型肝炎は輸血での感染がよく知られていましたが、輸血以外の感染経路で、しかも集団で感染したのです。感染の発端はひとりの職員からということでした。B型肝炎は昨年からすべての乳児に対して定期接種が始まりましたが、対象者より年齢が上の子ども達や職員は接種の対象になっておらず無防備な状態のままです。

2016年、関西空港内事業所の職員に麻疹(はしか)の集団感染が発生しました。勤務者33名が麻疹に罹患しその後終息したそうです。空港は不特定多数が利用するところであり、その職員の感染は流行が広域に拡大する危険をはらんだものでした。このように多数の人と接する職場で勤務する人は、自分の感染が自分一人の問題では済まず、多数の人を巻き込む流行にひろがる可能性があります。現在、子ども達は麻疹・風疹の予防接種を2回接種しており、免疫は十分期待できます。むしろ、予防接種が不十分な大人が麻疹にかかることが目立つようになりました。特に東南アジアに旅行して感染し国内に持ち込むことが多いようです。

予防接種の目的

予防接種を受けるとその人の体内で病原体に対する抵抗力が作られ、その感染症にかからなくなります。痛い注射をがまんすることで自分の免疫力が高まります。この個人防衛が予防接種の第一の目的です。そして、個人防衛がうまくいけば他の人への感染の拡大を防ぐことができます。これが予防接種の第二の目的です。教育や保育、医療の専門職が予防接種を行う理由はそこにあります。さらに、その集団の大多数の人たちが予防接種をすると、その集団内での流行がなくなります。これが集団免疫です。保育園や幼稚園、子ども園の先生方が「できるだけ予防接種をしてください」とお願いする理由はここです。多くの園児が予防接種をすることで、その園全体の集団免疫の力が増し、園児全員の健康を守ることを願っているためです。事情により予防接種が受けられない人がいたとしても、集団免疫がしっかりとあれば、その人を感染症から守ることができます。この集団免疫が予防接種の第三の目的です。予防接種で泣いてしまう子ども達、でもその一人ひとりの涙の数が集まっていくうちに、その先にいる違う誰かの命も守っていくのです。この集団免疫という考え方を、ぜひ心の片隅にしまい込んでおいてください。そして、わが子のために、わが子は仲間のために、予防接種をぜひ頑張っていただくことをお願いいたします。