14)子育て力アップ講座 5 子どもの風邪薬の誤解(その4)
子どものころは頻繁に風邪をひきます。風邪には早めの風邪薬をと思いがちですが、残念ながら風邪薬には早く治す力や予防効果は期待できません。風邪は薬の力で治るのではなく、自分の力で治っていくものです。でも、だからといって放置しておけばよいというわけではありません。症状経過をていねいに見守り、必要な援助を続け、なぐさめたり、はげましたりしながら峠を越えるのを待ちます。でも、めったにないことですが、急変し重症になり緊急入院となる場合があります。風邪の経過の中で、そのような病状を見逃さないことは大切です。今回はそんな病状について解説します。
「小児科医があわてる時!」
小児科医は子どもを相手にしますので、おだやかで、おちついた雰囲気の医師が多いです(と思います)。でも、そんな小児科医でもあせったり、あわてたりする時があります。緊急で対応しないと命にかかわるような病状に出会った時です。では、どんな病状のときに小児科医はあわてるのか、いくつか紹介いたします。
「けいれんと意識障害、脳炎・脳症」
脳炎・脳症は名前の通り脳の病気です。その原因の多くはウイルスで、インフルエンザ脳症が一番有名です。インフルエンザの経過中にけいれんなどの神経症状で発症します。突発性発疹症、ロタウイルスによる胃腸炎も脳炎・脳症を引き起こします。いわば風邪の合併症として発症するのです。風邪の経過の中で、けいれんや異常行動など脳神経の症状があらわれた場合は要注意です。緊急入院し集中治療を行いますが、後遺症が残ったり、命を救えない場合もあります。
「症状がわかりにくい、急性心筋炎」
風邪の経過中にウイルスが心筋炎を起こすことがあります。ぐったりして動かなくなり、いつもと様子と違うという印象を受けます。むくみや嘔吐、呼吸困難が見られることもあります。心音をチェックすると頻脈や徐脈、不整脈などがあり、それがきっかけで診断されます。原因は夏風邪ウイルス、インフルエンザウイルス、アデノウイルスなどが有名ですが、子どもの普通の風邪でも起こります。緊急入院をして集中治療を行いますが、心不全が進み亡くなることもあります。また、突然死の原因のひとつです。はっきりした症状がないので気づきにくいのですが「なんとなく元気がない」と思えたときは注意すべきです。
「初期診断は風邪、細菌性髄膜炎」
細菌性髄膜炎は、ヒブ菌や肺炎球菌が髄液内(脳や脊髄)に入り込み炎症を起こす病気です。けいれんや意識障害などの症状が出ます。初期症状は発熱ですが、その段階で髄膜炎と診断することは困難であり、最初は風邪と診断されることが多いです。けいれんや意識障害があれば緊急入院し治療しますが、後遺症が残ったり死亡したりすることもあります。初期診断が難しいことから、予防に力を入れることが大切です。予防の方法は生後2ヶ月から始めるヒブワクチン、肺炎球菌ワクチンです。予防効果は抜群です。
「緊急対応が必要、急性喉頭蓋炎」
発熱、喉の痛みが初発症状です。その後ゼーゼーと呼吸が苦しくなり、さらに進むと窒息にいたり死亡します。ヒブ菌が喉頭蓋(声を出す声帯の少し上)に炎症を起こし、喉頭蓋が急速に腫れるため窒息するのです。患者は、口を開けてあごを突き出すような姿勢を取ることが特徴です。緊急入院し集中治療する必要があります。ヒブワクチンの接種が始まってから減ってきているといわれています。
「経過をていねいに見守る」
小児科医はほかにもいくつか気にしている病状があります。鼻水が続く場合は急性中耳炎合併があったりしますし、発熱が続く場合は川崎病も気になります。咳がひどい場合は肺炎や喘息について何回かチェックします。胃腸炎のように見えても腸重積や急性虫垂炎の時もあります。また、軽い風邪症状で来院して白血病がみつかることもあります。いずれもていねいに経過を見守ることで、わかってくることがあるのです。