11)子育て力アップ講座 3 子どもの風邪薬の誤解(その2)
子どものころは頻繁に風邪をひきます。風邪をひいたときに使うのが風邪薬です。この風邪薬についていくつかの誤解があります。今回は抗生物質の話です。
「カビが生え、捨てる時に発見」
アレクサンダー・フレミングは世界で初めて抗生物質(ペニシリン)を発見した人です。今から90年くらい昔、細菌の研究をしていたフレミングは実験室の廃棄物を点検していた時に、アオカビが生えたところだけ細菌がいないことに気づきました。アオカビの成分が細菌の生育を阻止したのです。これが、抗生物質(ペニシリン)の発見です。その後、ペニシリンが薬剤として使用され始めたのは第二次世界大戦の頃です。戦後、細菌感染に効果的な抗生物質が急速に開発され、重症な感染症も助かるようになり、はかり知れない人類への貢献につながっていきます。
「風邪に抗生物質は効く?」
風邪の原因はほとんどがウイルスの感染です。抗生物質は細菌の感染には効果が期待できますが、ウイルス感染症である風邪には効果はありません。つまり「風邪に抗生物質は効かない」のです。しかし、私が大学を卒業して医師になった頃は風邪に抗生物質を使うのがむしろ普通でした。これは、風邪に引き続いて起こる二次的な細菌感染を予防するとか、細菌性感染症を見逃すリスクを回避するためなどいくつかの目的がありました。しかし、その後、二次的な細菌感染症の予防効果はないことがわかり、むしろ重症な細菌感染症を見逃す危険が増えること、あるいは、迅速検査でウイルス感染症が判別しやすくなったことなどから、風邪で抗生物質を処方することは少なくなってきました。早く風邪が治ってほしいというのは親心ですが、風邪に抗生物質を使うことで風邪症状が早く良くなるということは証明されていません。きたない鼻水(膿性鼻汁)に対する抗生物質の効果も証明されていません。ただし、細菌性の副鼻腔炎、急性中耳炎、肺炎やマイコプラズマ感染症、溶連菌感染症、百日咳など細菌感染が特定された場合は抗生物質をきちんと使います。つまり、使うべき時と場合を見極めて必要な抗生物質を必要な量使うという考えです。
「抗生物質は害がない?」
抗生物質を内服したときに最も多くみられる副作用は下痢です。抗生物質が病原細菌だけでなく(罪のない)腸内細菌にも影響し下痢になります。最近は腸内細菌の重要性が指摘されていますから、この影響は軽視できません。しかし、もっと深刻な問題は細菌の耐性化です。これは、抗生物質を使うことで、細菌がその抗生物質に抵抗力を持つようになり、本当に効かせたい時に効かなくなるという現象です。重症な感染症で耐性のため抗生物質が効かないことは命にかかわります。
このようなこともり、風邪薬に抗生物質は使われなくなってきました、しかし、抗生物質を使わない選択をしても、経過の中で急性中耳炎になったり、肺炎に進んだりすることもあります。よりていねいな経過観察が要求されますし、必要な時には躊躇なく抗生物質使用に踏み切る臨機応変さも必要です。