6)解熱剤の話

 先回は発熱の意味について基礎研究の成果をお伝えしました。体温が上がることで体に感染した病原体の増殖を抑え、体の免疫系を活性化します。発熱は体を守る働きのひとつです。では、そのような発熱に対してどう対応していけばいいでしょうか?今回は解熱剤の話をいたします。

柳の樹皮

 紀元前のギリシャ時代には柳の樹皮を熱と痛みを軽くするために使ったとされています。また、中国においても柳の樹皮を歯痛止めに使うという古い記述が残されているそうです。発熱や痛みは頻度の多い症状なので、その対処は古い時代から需要があったものと思われます。それから千年以上の時がたち、19世紀になって、ようやく柳の樹皮から有効成分が抽出され、アスピリンが開発されました。アスピリンは1897年にドイツのバイエル社から発売されています。それ以降、アスピリンは全世界で使われました。痛みが取れ、熱が下がるという劇的な効果は人々に大きな恩恵をもたらしました。やがて、熱が出たら解熱剤で下げるということが常識となり、発熱は体に害をもたらすよくない状態と思われるようになりました。

解熱剤のプラス面とマイナス面

  解熱剤のプラス面は、一時的とはいえ熱が下がり楽になれることです。頭痛や歯痛が少しでも緩和されるというのは変えがたい利点です。しかし一方で、解熱剤のマイナス面を指摘する報告も出てくるようになりました。病原体を感染させた動物に解熱剤を使うと、使わないグループに比べて死亡率が高くなるという実験結果があります。さらに、インフルエンザや水痘でアスピリンを使用するとライ症候群という重篤な脳症になる可能性が指摘され、それ以降アスピリンを解熱剤として使うことはなくなりました。また、ある種の解熱剤がインフルエンザ脳症を重症化させるということがわかり、それらも小児には使われなくなりました。解熱剤をたくさん使ったからといって風邪が早く治ることはなく、熱性けいれんを予防する効果もありません。このように解熱剤の欠点や効果の限界がみえてきたため、子どもの解熱剤の使い方も変化してきています。

子どもの熱に対する解熱剤の使い方

 現在、子どもの解熱剤として使われているのはアセトアミノフェンという薬剤です。副作用が少なく、子どもに安全に使える薬として汎用されています。熱が38.5度以上で使用するよう指示されることが多いですが、熱のわりに子どもが元気にしていたり、よく眠っているようならばすぐに使わず、様子を見ることをお勧めしています。子どもが熱や頭痛でとても苦しそうにしている時には、一時的に楽になれるように解熱剤を使います。熱が高い時は、思うように体温が下がらない時もありますが、すこし下がるだけでも子どもは楽になります。また、解熱剤よりもママの「大丈夫よ」の声がけが子どもにとって何よりに癒しになります。嫌がらなければ冷やしてやったり、水分を与えたりします。食欲が落ちることが多いですが、無理じいせず、食べられそうものを食べられるだけでかまいません。そうやって看病しているうちに、やがて熱は峠を越えて下がっていくことと思います。