5)発熱の基礎医学

熱が出た!

小児科に受診する子どもの症状の多くは発熱です。高熱になれば心配になるのが親心というものです。小児科医は診察した上で治療薬や家庭での手当を説明しますが、外来が混んでいたり、子どもがつらそうにしていると、発熱することの意味や仕組みをゆっくりと説明する機会がありません。そこで、今回は発熱について、いくつかの話題を紹介したいと思います。 

金魚の実験

発熱は昔の医学者達も関心を持ち、いくつかの動物実験の結果を報告しています。その中で、発熱の持つ意味をさぐるために金魚で行なわれた実験があります。

金魚に細菌を感染させ低温の金魚鉢と高温の金魚鉢を自由に泳いで行けるようにします。すると、細菌に感染した金魚は高温の金魚鉢に移動するそうです。金魚の体温は上昇し移動したすべての金魚が生き残りました。また、異なる温度の金魚鉢で比較すると、高温の金魚鉢のほうが金魚の生存率は高くなりました。高い環境温により体温が上がるということは細菌感染に負けない力になることを示唆しています。

イグアナでの実験

金魚より少し高等な生物での実験もあります。高等といっても爬虫類です。

爬虫類であるイグアナに細菌を感染させ、低温環境と高温環境のコーナーのある飼育室に入れたところ、イグアナは高温環境の場所に移勤して自分の体温を上昇させました。

次に、感染させたイグアナを異なる温度の飼育室に入れると、高温飼育室の生存率は高くなりました。最低温の34度の飼育室では全例が死亡しましたが、感染していない健康なイグアナは34度の環境でも死亡することはありませんでした。この実験でも感染症の場合、体温を上げることが生存に有利に働くことがわかります。

子犬での実験

 それでは、哺乳類ではどうでしょうか。

生まれたばかりの子犬は体温調節ができず、体温は環境温度に左右されます。子犬にウイルスを感染させ、異なる温度環境においてみました。その結果、やはり高温環境で体温が上がった子犬の生存率が高い事がわかりました。成長すれば犬も感染症の時は発熱するようになります。金魚やイグアナは発熱することができないため高温環境に移動し体温をあげますが、哺乳類はみずから発熱し体温を上げるしくみを身につけています。

哺乳類の発熱のしくみ

哺乳類では、ウイルスや細菌が感染すると体の免疫細胞がそれに気づき、発熱物質を放出し始めます。発熱物質は血流によって脳には運ばれ、脳の体温調節中枢に働いて体温のセットポイントを上昇させます。ちょうどエアコンの設定温度を変えるように、体温の設定を平熱の37度から39度、40度にセットしなおすのです。これにより、脂肪組織の代謝が高まり、筋肉の震えがきます。寒気を訴えてガタガタふるえる時期です。筋肉運動で熱を産生しているのです。この時、顔色が悪くなり、手や足が冷たくなりますが、体内で作った熱を外に逃がさぬように皮膚の血管収縮が起こっているためです。このようにして体温をあげ発熱します。

発熱の意味

 発熱し体温が上がることで体に感染した病原体の増殖を抑え、体を守る免疫系を活性化します。その結果、感染症を治癒に向かわせるのです。魚類や爬虫類はそのために高温環境に移動しますし、哺乳類はみずから発熱することで体を感染症から守っていると考えられます。発熱は生存のためになくてはならぬ体の働きなのです。(次回は解熱剤について説明します)