31)子どもの脳しんとう

「脳しんとう」と聞いて、皆さんはどのようなイメージを持っていますか。お子さんが頭をぶつけた後、ちょっと元気がなくて心配したけれど、「軽い脳しんとうのようですね」と医者から言われたら、「あーよかった」となるのではないでしょうか。

 脳しんとうとは、頭をぶつけた後にしばらく頭が痛かったりぼーっとしたり、吐き気や一時的な意識消失を伴ったりする状態を言います。通常は特に治療をしなくても自然に回復するので、何となく「脳しんとう」と言われると「じゃあ大丈夫」と感じる人が多いと思います。

 しかし、脳しんとうとは脳損傷なのです。「軽い脳しんとう」を「軽い脳損傷」と言い換えるとニュアンスが変わります。また近年、主にスポーツの世界で注目されているのが「セカンドインパクト症候群」です。脳しんとうの症状が治らないうちにもう一度頭をぶつけると、普段であればなんでもないようなケガでも頭の中に出血してしまったり、命に関わったりすることがある怖い状態です。

 2014年にスケートの羽生結弦選手が本番前練習で頭に大けがをしたにもかかわらず、その直後に包帯を巻いて試合に臨んだことがありました。「アクシデントを乗り越え出場!」と美談になっていましたが、もしもう一度頭をぶつけるようなことがあったら非常に危険な状態であったと言われています。

 本来ならスポーツ中に脳しんとうが疑われた時点で競技中止です。そして競技への復帰も専門医の指導のもと、軽い運動から段階を経て復帰するのが望ましいとされています。そもそも脳しんとうに軽いも重いもありません。頭をぶつけた後に少しでもいつもと違う様子があれば、まずは安静にさせて様子をみてください。そしてさらに具合が悪くなる、もしくは様子がおかしい状態が続くなら受診をお勧めします。

 脳しんとうの症状は、数日から数週間続くことがあります。症状が完全になくなるまでは要注意です。脳しんとうを起こした子どもに対しては、本人任せではなく周囲の大人がしっかり「管理」してあげる必要があります。

 脳しんとうは適切に対処しなければ、本当は怖いのです。

 長谷川聡(県立新発田病院・小児科)