30)チック

 チックとは、突発的・急速・反復性の運動、あるいは発声であると定義されています。チック症状の種類には「運動チック」と「音声チック」があります。

 運動チックは、まばたき、首振り、肩すくめなどの単純な突然の動きであったり、表情や身ぶり・手ぶりなど、まるで目的を持った行動に見えるような複雑な動きであったりします。極端な場合、自傷行為(たたく、かむ)が見られます。

 音声チックは、せき払いが最も多い症状ですが、複雑な発声や発言があることもあります。重症例では、汚言(悪口や卑猥(ひわい)な言葉を繰り返す)が出る場合もあります。

 運動チックあるいは音声チックにより、自尊感情・社会性・学業などに困難をきたしている状態をチック障害と呼びます。

 チックは種類・部位・回数・強さなどが変動します。心理的要因に影響されることが多く、緊張が増す場合や強い緊張が解けた場合などに、症状が増える傾向があります。また疲労時に増加しやすく、睡眠時や発熱時に減少します。

 チックの持続期間が1年以上あり、多彩な運動チックと一つ以上の音声チックが同時期に見られるものを「トゥレット症」と呼びます。トゥレット症では、他の精神疾患(強迫症・注意欠如多動症など)の合併があることが多く、注意が必要です。

 治療は、家族ガイダンスや環境調整を行うことが基本となります。図に挙げたような要点を中心に説明し、本人、家族、教師などの周囲の人々に理解を促します。

 さらに症状の重症度を考慮し、薬物療法を組み合わせます。チックの原因はまだ完全に解明されていませんが、中枢神経系の過剰なドーパミン(神経伝達物質)が関連していることが判明しています。内服薬によりドーパミンを調整することで、チック症状の改善が期待できます。また他の精神疾患や発達障害の合併が見られる場合は、それらに対しても並行して環境調整や治療を行います。

 チック自体や合併症を含めた症状全体の重症度(生活の支障・自己評価の低下・社会適応への影響)を慎重に評価し、チック症がある本人を包括的に理解し、治療・支援を組み立てることが大切です。

 仁田原康利(吉田病院・小児科)