20)お薬以上のアドバイス

 風邪やインフルエンザが流行する季節です。せきや鼻水の出る子供を連れ、小児科を受診する機会も増えることでしょう。でも、ちょっと待って! 今こそ改めて受診の意義を考えてみませんか。

 体調の悪い子供をやっとのことで車に乗せて、小児科に向かう。そんな時、多くの保護者が「早くお薬をもらいたい」と考えているはずです。受診する側としては、目に見える形として風邪薬や抗生剤を処方してもらうこと、それが最終的な受診目的になってしまうことがあります。一方で、診察する側の私たち小児科医は、診療を通して病状を把握し、お薬を処方するかどうか判断します。処方は診療の一つのステップでしかないのです。

 ここ数年で小児科医が処方するお薬の種類が減ってきました。初めての子育て中という方は気づかないかもしれませんね。でも、孫のお薬を見て「あら、抗生剤がない」と感じた祖父母世代は少なくないでしょう。

 実は、抗生剤を内服しても、菌による中耳炎、肺炎、髄膜炎などの合併症を予防できないことが分かっています。ですから、やみくもに処方するのではなく、診察や検査で抗生剤が必要だと判断したときだけ処方するのです。ある種のぜんそくのお薬や、鼻水を止める抗ヒスタミン剤なども処方の減ったお薬です。多くのデータから、これらのお薬を飲むと子供がけいれんを起こしやすくなることが分かったのです。

 「あれもダメ、これもダメでは家で寝てるしかないじゃない!」と、お叱りを受けそうですね。でも、そうなんです。それが子供にとって一番の治療なのです。一昔前までは、たくさんの種類のお薬を出してくれるのがいいお医者さんでした。では、今はどうでしょう。もちろん症状に合わせて必要最小限のお薬は必要ですよね。その次が重要なんです。たとえお薬がなくても自宅でできる治療のコツを知りたいと思いませんか? そこが小児科医の腕の見せどころ、小児科を受診する意義の一つです。きっとすぐ近くにも、お薬以上に大切な“アドバイスを処方してくれる心強い先生がいらっしゃいますよ。

 大塚岳人(新潟大学小児科)