19)新生児医療のこれから

 今、あなたの周りに赤ちゃんがいるとしたら、それは幸運なことかもしれません。わが国で赤ちゃんに接する機会はこの数十年で半分に減ってきているのです。

 第2次ベビーブームの頃、日本の年間出生数は約200万人でしたが、その後は減少を続け、近年は約100万人になっています(グラフ(上))。一方で低出生体重児(出生体重が2500グラム未満)の割合は増加傾向にあり、現在は約10%になっています。少子化は先進諸国に共通した傾向ですが、低出生体重児に代表されるようなハイリスク児の出生数がむしろ増加しているのは、わが国特有の問題といわれています。

 新生児医療レベルを判断する尺度のひとつに新生児・乳児死亡率(出生1000人当たり生後4週間未満・1歳未満に亡くなる数)があります。新生児死亡率は1980年代から、乳児死亡率は1990年代から、日本は世界で最も低い状態を維持しています。2014年のデータではそれぞれ0・9人、2・1人で世界ナンバーワンの低さです(グラフ(下))。とりわけ未熟性の強い500グラム未満で生まれた赤ちゃんにおいても、現在はその70%が退院できるようになっています。

 新生児・産科医療の進歩によって赤ちゃんの生存率は劇的に改善されてきました。その一方で長期間にわたる集中治療によって家族の分離が起きてしまい、社会や家族の一員としてその赤ちゃんをうまく受け入れることができなくなってしまうこともあります。脳性まひや発達障害といった後遺症のみならず、児童虐待、育児放棄、家庭崩壊…こういった問題で赤ちゃんが「生きにくく」なってしまうことがあるのです。出生は家族形成のスタートでもあり、集中治療の現場においてこそ家族形成を大切にしなければなりません。

 近年、新生児集中治療にご家族から積極的に関わってもらう試みが始まっています。後遺症無き生存を一緒に目指しながら、家族として共に生きていく基礎をつくってもらう。このことが赤ちゃんの健やかな成長には欠かせないと思っています。

 和田雅樹(新潟大地域医療教育センター魚沼基幹病院地域周産期母子医療センター特任教授)