14)抗生物質の必要性

 すっかり寒くなり、風邪をひいている人も周りに増えてきました。皆さんが風邪をひいたとき、抗菌薬(抗生物質)の処方を受けたことはありませんか?

 抗菌薬は、細菌(ばい菌)感染症に対する薬剤です。風邪はウイルスによる感染症で自然に治癒し、抗菌薬の効果はありません。

 今、医療の現場では、抗菌薬の効かない薬剤耐性菌が大きな問題となっています。1980年代までは、新しい抗菌薬が次々と開発されてきましたが、2000年代に入ってからは、その開発費が非常に高額なことや次から次に出現する耐性菌に対応できず、製薬会社は新しい抗菌薬の開発をほとんど行っていません。一方で、毎年、新しい耐性菌が数多く報告され、治療に難渋する感染症をしばしば経験します。 

 抗菌薬を正しく使うことを「抗菌薬の適正使用」と言います。これを実現するために国内、海外の医療機関では、感染症の専門家がその使用を監視し、制限する方策をとりつつあります。そうした中、一般の外来診療では、いまだに風邪をひいた患者さんに抗菌薬が処方されていることをよく見かけます。「抗菌薬の適正使用」を実現するためには、処方する医師がその適応をよく理解しなくてはいけません。同時に、処方される側も医師の言いなりではなく、抗菌薬が必要、不必要な状況を知るべきと考えます。

 重要なのは、抗菌薬を服用するデメリットがあることです。抗菌薬の服用は、自らの腸内の細菌のバランスを壊し、体中に薬剤耐性菌をもつ原因となります。抗菌薬の副作用も一定の頻度で起こります。さらには腸内の細菌のバランスの崩れが、さまざまな成人病やアレルギー疾患など多くの病気と関係していることが分かってきています。

 今年(2016年)11月16日から22日は、世界で初めての「抗菌薬の適正使用」のための啓発週間でした。抗菌薬は、われわれ人類が作り出した素晴らしい医療資源の一つです。この素晴らしい財産を次の世代に、未来の子どもたちに引き渡すためにも、今あらためて抗菌薬の大切さを再認識し、医療関係者のみならず、一般の方々も「その抗菌薬、本当に必要ですか?」と問うてもらいたいと思います。

 斎藤昭彦(新潟大学大学院医歯学総合研究科小児科学分野教授)