9) 障害児と在宅医療

 生まれてから間もなく全身の筋力が低下し、体を動かすこともままならず、自分で呼吸ができなくなる病気がある。この病気のA君は人工呼吸器によって命が維持されていた。生まれてからずっと入院生活を続け、病室の天井しか見たことがない生活が8年間続いた。両親の一大決心で、人工呼吸器を調達し、退院させて自宅に帰ることにした。「小児在宅医療」など一般的になっていなかった20年以上前の話である。

 高額な医療機器を家庭で購入することは難しく、譲ってくれるところがあると聞き、あちこち奔走したが、成人用のものしかなく転用は難しかった。両親の思いに共感した祖母が費用の負担を申し出て、購入が実現した。

 新生児医療、救急医療の進歩により、新生児、乳児の死亡率は格段に低下したが、副次的に、長期的な医療ケアを必要とする例が急増している。また、本例のように、一定の確率で出生する先天的疾患によっても、長期入院を強いられている例がある。こういった超重症心身障がい児の実態は、まだ詳細には把握されていない。

 日本小児科学会の一部の地域に対する調査では、超重症児の生じる割合は20歳未満の地域人口1000人当たり、おおむね0・3とされている。この調査によると、小児向けの人工呼吸器数は病院と個人宅がほぼ同数。介護者の不在や経済的な理由などから在宅医療に移ることができず、長期入院をしている子どもが多いと推測され、支援制度の整備が求められている。

 また、小児の訪問介護は極めて限られたものでしかなく、在宅介護のほとんどが家族(主に母親)によってなされ、家族の支援も必須となっている。

 「障がい」=特性という考え方がある。「障がい」=「生きにくさ」となっている現状の中で、介護や経済的な負担感を少しでも軽減できるようになれば、「障がい」が特性と感じられる日に近づくことができるかもしれない。小児在宅医療の環境づくりには、そういった側面もある。

 佐藤勇(よいこの小児科さとう院長)